さて、ここからは松本&内村コンビが披露したこのネタの構造を考えてみたい。
実質7分半のネタ時間の間に8つの大きな山をつくり、そこを起点にして数多くの“手数(=客の笑いを起こすポイント)”がちりばめられているのがこのネタの特徴である。珍妙な格好の刑事の登場、登場してからの刑事のアクション、あっさり殉職、絶叫される刑事の名前、刑事の写真、写真に被さるナレーションと、ネタの構造を見るだけで、ひとつの山ごとに6つのポイントが盛り込まれている。単純計算すると8×6で48。実際には細かなアクションや言葉による笑いも盛り込まれているので、手数自体は48×2だったり48×3だったりする。つまり今回松本と内村がとった作戦は、手数を生み出しやすいコントの構造を作り上げるところから始まっているのだ。
しゃべりのスピードを上げることによって、手数を増やすことは可能だ。たとえば07年のM-1グランプリに登場したキングコングやトータルテンボス、08年のNON STYLEなどがそうだ。しかしスピードアップされたお笑いは、すべての手数が機能するとは限らない。単純な話、客がそのスピードについていけないのだ。結果、キングコングとトータルテンボスはサンドウィッチマンに敗れ、NON STYLEはネタを超絶技巧でこなすことによって手数の多さを客にきっちりと伝えて勝利した。
ブログでお笑い論を展開している現役芸人のサンキュータツオは、M-1に登場するお笑いコンビを“手数”の概念で解説したパイオニア的存在である。彼の解説によると、漫才コントで手数の多さを突き詰めたのがサンドウィッチマンであり、しゃべくり漫才で手数を極限まで増やしたコンビがナイツなのだという。この両組は単にスピード感のあるやりとりで手数を増やしたというだけではなく、手数を増やすために漫才の構造自体を変えてしまったという点が共通している。構造は“スタイル”と言い換えてもいい。サンドウィッチマンはフリをなくすことによって手数を増やし、ナイツはボケの言い間違いを起点にしてそこに複数のツッコミを被せることによって手数を増やすことに成功した。
そして2008年のM-1グランプリでナイツが漫才を披露したとき、手数について言及したのは、誰あろう松本人志だった。手数そのものはNON STYLEのほうが多かったが、松本はナイツの審査のときに手数についてコメントした。それはナイツの“手数を増やす漫才の構造”に松本が着目したからだと言っていいだろう(このあたりについては、サンキュータツオのブログに詳述されている)。
今回披露された松本&内村コンビのネタには、はっきりとした8つの笑いの起点があり、そこに細かな手数をちりばめている形である。漫才とコントの違いはあれど、ひとつの起点に小さな手数を重ねていくという構造だけを見れば、ナイツのスタイルと似ていると言ってもいい。ナイツも松本&内村コンビもいずれも手数を増やすための構造を作り上げているのだ。客にとっても非常にわかりやすく笑いやすい。笑い飯のようなボケの交代も取り入れられ、全体の流れにアクセントがついている。M-1とドリームマッチは、いずれも限られた時間内で笑いを競うイベントである。M-1で感じた笑いの方法論の進化を、松本(と内村)が自分たちのネタに取り入れたのではないだろうか?
ちなみに、松本がナイツの手数についてコメントした08年のM-1放送日は12月21日。そしてドリームマッチの収録日はというと、その前日の12月20日だったりする。内村とともに手数を意識してネタを作り上げた翌日にナイツの漫才を見た松本が手数に言及した、というのは自然の流れのような気がする。
松本と内村はベテランでありながらも、それぞれ貪欲に笑いの最先端を模索しつづけている芸人である。このふたりがコンビを組んで化学反応を起こしたとき、最先端の笑いの構造を取り入れながらも、観客の笑いに最適化したネタを完成させたとしてもおかしくはない。それぞれ名前に頼らずに新しい笑いを模索した結果が今回のベストカップル賞、ということなのだろう。このふたりが数年後、またコンビを組むようなことがあれば、そのときはまたまったく違う形の笑いを見せてくれるような気がする。